コレクション: 熊野九郎右ヱ門

見終わらない景色

 作り手との対話で緊張することはほとんどなくなってきたのですが、熊野九郎右ヱ門氏との対面では、これまでにないほどの緊張を覚えました。

 それもそのはず、氏に関する情報は極めて限られており、漸く見つけたものも7年以上前の資料ばかりでした。数枚の作品画像を拝見しただけで「この方は素晴らしい作品を作られるに違いない」と直感し、ようやくお会いする機会を得たのです。

 その作品は、通常ならば一見して感想が出るところ、裏面の一部を見るだけでも、一つの世界がそのわずかな部分に凝縮されているかのようで、ただ圧倒されるばかりでした。そのため、一つの器を見終えるのに時間がかかり、その全体をどう言葉で表現すればよいのか、容易には見つかりませんでした。

 氏の言葉からは、器が果たす役割を超えた哲学的な視点が見受けられます。氏は、器が「使われる」瞬間よりも「使われていない」時間の存在感や影響力に注目しています。日常生活の中で、視界に入る器が人にパワーを与え、励ます役割を果たせるのが「本当の器の仕事」だと考えています。さらに、器が単なる道具からアートの領域に昇華するためには、器自体がその限界点まで挑み抜く必要があるとも語っています。
焼物における極限の状態を経て、器に特別なオーラを宿すのだと述べています。
これにより、器が単なる実用品ではなく、人の心に響く芸術作品となるのです。

 さらに、このたび熊野九郎右ヱ門氏とお会いできたことで、2025年現在の氏に関する最新の情報をお届けできるという栄誉を授かりました。
この貴重な情報を、ぜひご覧いただければ幸いです。

陶歴

1955 福井県鯖江市生
1977 名古屋造形芸術短大(日本画)卒
1977~1986 越前・藤田重良右エ門、高山・戸田宗四郎両氏に師事
1984 石川県山中町九谷修古会の依頼にて古九谷磁土、元九谷瓷器土発見
1985 旧ソビエト外務省より招聘
   ハバロフスク、リガ、ソチにて穴窯指導
1986 サハリン州知事より招聘、陶土開発
2000 ドイツ外務省より招聘
   国際陶芸シンポジウム特別ゲストとして講演「芸術と美術の差」
2004 ドイツコブレンツヴェステルバルド陶磁博物館にて、
   「全EU陶芸展&JAPAN Kumano展」
   コブレンツ応用科学大・カッセル芸大にて講演
2006 ドイツ外務省より招聘
   コブレンツ応用科学大学にて超高温焼成実技指導(穴窯)
2009 東京大学大学院教育学研究科にて講演
   「創造性の心理学」

作品収蔵
 ケルン市立東洋美術館(独)
 ヴェステルバルド陶磁博物館(独)
 州立サウスオーストラリア美術館(豪)
 ピートモンド大学美術館(米)
 奈良県緑ヶ丘美術館、福井県陶芸館

個展
 梅田阪急本店 25年間
 渋谷黒田陶苑 25年間
 藤枝侘助 30年間
 日本橋髙島屋、新宿伊勢丹、銀座松屋
 横浜そごう、札幌丸井今井、 他