福井出張2日目の朝。
東京ではあまり見ることができない大雪に見舞われ、本当にこんな中で移動ができるのかと不安でいっぱいだった。
しかし、さすが雪国。
同乗させていただいた車は、雪道でも驚くほどスムーズに進み、無事に熊野九郎右ヱ門氏のアトリエへ到着した。
ガレージには雪が積もっており、ほんの数メートル歩くだけでも雪に足を取られ、冷たい空気が身にしみる。
それでもアトリエの扉を開けた瞬間、別世界が広がっていた。
室内には薪ストーブが赤々と燃えており、その柔らかな温かさが心まで温めてくれる。
大きく開いた窓からは絶え間なく雪が降り続いており、外の厳しさが薪ストーブの暖かさを一層際立たせていた。
氏のもてなしは、暖かさだけでなく、人格の大きさや懐の深さを感じさせるものだった。お話を伺ううちに、外の世界とは対照的に、心地よく穏やかな時間が流れていく。
今回の訪問の目的は、3月に実施する茶事のイベントで使用する抹茶盌のお貸出しについての依頼だった。
まだ2回目の訪問でしかない私の厚かましいお願いにもかかわらず、氏は熱心にイベントの詳細を尋ねてくださり、まだ確定していない部分も多い中、私の考えを丁寧にお伝えした。
すると氏は奥様に向かって「あの抹茶盌を持ってきてほしい」と頼まれ、一つの抹茶盌が私の手元に渡された。
現在店頭でお預かりしている抹茶碗は、どれも個性豊かな作品ばかりだが、今回用意してくださった抹茶盌は、表現として適切かはわからないが、まるで清楚で美しい女性を思わせる佇まいだった。
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和やかな雰囲気の中、氏の若い頃の破天荒なエピソードや、歴史・地理への深い造詣、長年の研究から導き出された哲学についてお話を伺い、貴重で楽しいひとときを過ごすことができた。
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また、別件として弊社が依頼しているTENOHA MILANOでの展示についても話題に上がった。
昨日、別のチームが訪問していたこともあり、その件について改めて問い合わせを受けた。
限られた情報の中で丁寧に説明すると、氏は紙と鉛筆を取り出し、現在金津創作の森美術館に展示中の七点の作品をスラスラと描き上げてくださった。
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そのラフスケッチは、特徴がしっかりと表現されており、温かみと力強さを併せ持つ素晴らしいものだった。
そして、氏のご厚意によりお貸しいただくこととなった。
3月のポップアップイベントでは、熊野九郎右ヱ門氏の魅力を存分にお伝えできる展示を目指し、全力で取り組んでいきたいと心から思える、素敵な時間だった。